「まちかどノーマライゼーション」
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平成14年2月から4年半にわたり、情報誌「fooga」(発行コンパスポイント)に連載コラム「まちかどノーマライゼーション」を掲載し、ノーマライゼーション思想の普及を行いました。 |
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筆者プロフィール
伊藤勝規
1964年宇都宮生まれ。
高校時代に宇都宮車いすガイドブック作りに参加したのをきかけに福祉道に入る。
「福祉」を慈善ややさしさとは切り離し、独自の視点で語ることをモットーとする。 |
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2004年9月号 「丸いポチポチへの怨念」
とあるメガネ店の前で、「色弱メガネ」というのぼりを見て、 遠い小学生の頃の体験を
思い出しました。それは、小学校1年生の身体検査の時のことです。
小さな丸い点が無数に集まった円の中にナニやら文字が隠されているようです。
友人たちは瞬時にその隠された文字を見つけ、その検査を通過していきます。
いよいよ私の番です。
「ウ〜ン・・・。難しい。なんでみんなはあんなに簡単に探し出したのだろう?」
などと考えているうちに、傍らの先生の表情がにわかに厳しくなり、
とうとう「なんでこんな簡単な文字が読めないの!」と叱られてしまいました。
幼かった私は、その検査の意味も分からぬまま、悔しさと不思議さだけが残りました。
その検査の意味と、自分が「色弱」という他人と違った見え方をしているらしい
ということが判明したのは、小学校4年生の検査の時でした。
その頃はちょうど「将来どんな仕事につきたいか?」
みたいな話題が学校でも出る年頃でしたが、子供が夢見る
スタンダードな職業の中にも「色弱じゃなれない」とされているものが多くありました。
学校の先生、医者、パイロット、船長などです。
そもそも、丸い点の集まりは石原式検査表と呼ばれるもので
徴兵検査のときに色覚異常者を見つけるために作られたようです。
「読める」「読めない」に2分する検査のため、ボーダーライン上の人でも
「異常」と判断されることが多く、この表で色弱と判断されても
精密検査で「正常」となるケースも多くあるそうです。
徴兵検査の遺物は戦後も綿々と生き続け、
一部を除く国立大学で色覚による入学制限がなくなった90年代、
今世紀に入ってからようやく、企業の就職試験での利用も制限されるようになりました。
しかし、今でも美術系の学校やテレビ局など色を扱う分野での制限は続いているようです。
実際、あの検査で「異常」と判断される場合は男性で約5%、
20人中に1人が「異常」というかなりの確率です。
その大多数が日常生活ではほとんど支障なく生活しているわけですから、
いくら色を扱う分野とはいえ、制限は多くの場合、根拠の無い差別であるといえます。
ところで「色弱メガネ」の広告には石原式の検査表が掲載されていて、
「これが読めなかったらご相談ください」なるコメントがあります。
読めたくたって生活の不自由を感じていないのに、
「読めなきゃ異常だからなおささきゃだめだよ!」と言わんばかりのコメント、
よけいなお世話です。
多数はに合わせることが「正常」なんて、ナンセンスだと思いませんか?
海の色を100人の人がブルーと名づけ、ブルーと呼ぶとしても、
そのブルーの感じ方が100人とも同じかどうかは誰も証明できないのです。
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