「まちかどノーマライゼーション」

ノーマライゼーション 平成14年2月から4年半にわたり、情報誌「fooga」(発行コンパスポイント)に連載コラム「まちかどノーマライゼーション」を掲載し、ノーマライゼーション思想の普及を行いました。

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筆者プロフィール

伊藤勝規
1964年宇都宮生まれ。
高校時代に宇都宮車いすガイドブック作りに参加したのをきかけに福祉道に入る。
「福祉」を慈善ややさしさとは切り離し、独自の視点で語ることをモットーとする。

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2004年8月号 「レーガノミックスとノーマライゼーション」

難しいタイトルでごめんなさい。
「レーガノミックス」とは、先頃93歳で亡くなったロナルド・レーガン氏が
アメリカ合衆国大統領時代に唱えた財政施策の呼び名です。
国民生活への政治の関与を極力少なくしていこうとする、いわゆる
「小さな政府」を目指した彼は、規制緩和や歳出抑制、大幅な減税などを実施しました。

レーガン元大統領は、1966年カリフォルニア州知事として政治活動をスタートさせますが、
ノーマライゼーションの思想が、障害者福祉の新しい考え方として評価を受け始めたのも
ちょうどその頃でした。
当時カリフォルニアには、全米でもっとも近代的と言われ3,400人の障害者を
収容する施設があり、施設に自信と誇りを持っていたレーガン氏は、
ノーマライゼーション思想の生みの親で、デンマーク社会省の役人であった
バンクミケルセン氏を招待し施設を披露します。

そもそも、ノーマライゼーションは、施設のような閉鎖された特異な環境の中で
障害者が暮らすのは不自然なことで、社会の中で暮らせるように環境を
整えていきましょうというものです。
設備がいかに近代的であるかが大切なのではなく、そこで暮らす障害者が
人間的な尊厳を守られているかが重要であることを知っているバンクミケルセン氏は、
そこで暮らす障害者の姿を見て施設を批判してしまいます。
新聞記者に「デンマークでは家畜にさえこのような扱いはしません」とコメントした
といいますから痛烈です。
超大国の州知事に小国の役人が噛み付いたのですから、レーガン知事の激怒も
容易に想像できます。バンクミケルセン氏の信念も相当だったのでしょう。

その後、レーガン氏は施設での障害者の生活実態調査に乗り出し、
結果的にバンクミケルセン氏の発言が正当なものであったと認めています。
両者が直接会っていたかどうかはわかりませんが、この事件によって
ノーマライゼーション思想がレーガン氏の脳裏にしっかりと焼き付けられたことは
間違いないでしょう。

ノーマライゼーション思想は財政コストの削除も目指しています。
大規模な施設を作りそこに多数の職員を配置して障害者をケアするよりも、
一般の社会の中で環境を整え、家族と暮らし支援を届ける方が安上がりだし、
そのほうが障害者の幸せな暮らしにつながっていく確信があるわけです。
「何でもかでも国が手を出し、大規模な施設に税金をつぎ込んで行なっていくことが
最善の策ではない」レーガン氏はこんなことを学んだのかもしれません。

「レーガノミックス」の目指した「小さな政府」は現代先進諸国が共通して目指す姿であり、
日本の小泉首相が取り組む行政改革もその流れの中にあります。
「レーガノミックスの原点はノーマライゼーションにあり」といえば大げさですが、
無関係ではなかったと思えてなりません。

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