「まちかどノーマライゼーション」

ノーマライゼーション 平成14年2月から4年半にわたり、情報誌「fooga」(発行コンパスポイント)に連載コラム「まちかどノーマライゼーション」を掲載し、ノーマライゼーション思想の普及を行いました。

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筆者プロフィール

伊藤勝規
1964年宇都宮生まれ。
高校時代に宇都宮車いすガイドブック作りに参加したのをきかけに福祉道に入る。
「福祉」を慈善ややさしさとは切り離し、独自の視点で語ることをモットーとする。

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2004年6月号 「盲目の三人から何が見える?」

「仔犬のワルツ」というテレビドラマの主人公は盲目の少女らしい・・・。
テレビドラマには百パーセント関心の無い私ですが、
障害をひとつのテーマとして展開するとなると多少の関心があります。
調べてみると、もとモーニング娘の安部なつみさん演じる盲目の主人公葉音は
養護学校育ち、不幸な人生から誰も信じられず・・・。
ただ一度聞いただけでその音色を奏でられるという特異な才能から
相続争いに巻き込まれていくというストーリーのようです。
障害プラス養護学校のダブルパンチで設定された「不幸」は、
「特異な才能と努力」により克服され、最後はハッピーエンドという「水戸黄門」的な
ストーリー展開を予想するわけですが、どうも「障害」イコール「不幸」という
予定調和的な設定が、「障害」に対する特別視を助長しているようで好きになれません。

同じくドラマの世界で活躍する盲目の主人公といえば、座頭市でしょう。
昨年、北野武さんが監督主演を行い再映画化、ベネチア国際映画祭で監督賞をとるなど
話題となりました。座頭市の職業は葉音と同じ按摩(マッサージ師)です。
生立ちについて私には知識がありませんが、まあ裕福な家庭に育ったのではないでしょう。
そのような座頭市に私が、葉音と同じ盲目という障害ゆえの不幸を感じるかといえば、
それはノーです。剣術という特異な才能で悪と戦う彼、盲目とは思えないけど
盲目だからこそすごい殺陣に感じるのは、ヒーローでありカッコよさでしょう。
皆さんはどうですか?

さて、盲目の三人目は現実世界の人です。
名は松本智津男、松本サリン事件で死刑判決を受けたあの人物です。
彼には他人の心、特に心の弱さを見抜くという特異な才能があったのでしょうか、
オウム真理教という集団の教祖として人心を集めます。
盲目という障害が彼のカリスマ性をより際立たせたともいえるでしょう。
もし、彼が人の道に違わない宗教を志していれば、多くの人が救われ幸せになったのかも
知れませんが・・・。彼を狂気の道に引き込んだのもまた盲目という障害から生まれた
誇大空想、被害者意識なのでしょう。
その意味で、彼もまた「不幸」なのだといえます。

松本被告が拘束された当時の新聞投書で印象的なものがありました。
それは、彼が事件の首謀者であることを否定し
「私は目が見えないのだから、こんな大それた事件を起こせるはずがないでしょう」
という内容の発言をしたことに対し、やはり盲目の障害を持つ男性からのもので
「悲しい。事件の是非はともかく、『目が見えない私でもこんな大事件が起こせるんだぞ』
くらいのことは言って欲しかった」という内容です。
この男性が普段の生活で受けている「彼は目が見えないから・・・」というレッテル、
求められる予定調和の罪の大きさを感じます。

うまくまとまりませんが、何かを感じていただけましたでしょうか。

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