「まちかどノーマライゼーション」

ノーマライゼーション 平成14年2月から4年半にわたり、情報誌「fooga」(発行コンパスポイント)に連載コラム「まちかどノーマライゼーション」を掲載し、ノーマライゼーション思想の普及を行いました。

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筆者プロフィール

伊藤勝規
1964年宇都宮生まれ。
高校時代に宇都宮車いすガイドブック作りに参加したのをきかけに福祉道に入る。
「福祉」を慈善ややさしさとは切り離し、独自の視点で語ることをモットーとする。

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2004年5月号 「もうすぐ100年、介護ベッド試練の時来る?」

高齢社会を相互扶助の思想で乗り切ることを目指しスタートした介護保険制度は、
いよいよ五年目に突入しました。
制度を利用する人も年々増加し、県内では現在約5万人が、
サービスを利用する前提となる要支援または要介護の認定を受けています。
厚生労働省では、当初の予定通り五年後の制度見直しに向け準備を進めています。 そんな中、「ベッドから一人で起き上がれるお年寄りに電動式の介護ベッドを貸し出すなどの
不適切な貸し出しが行なわれているので、貸し出しに関するガイドラインをまとめる予定」
というニュースが伝わってきました。
気の早い関係者の間には、比較的に介護必要度の低い高齢者に貸し出された
電動式介護ベッドを引き上げる動きが出始めています。
金融界なら「貸し剥がし」ということになるのでしょうか、私個人としては
困惑する高齢者も多く出るのではと危惧しています。

背中や脚を支える床板部分の傾斜角度が変化し、また寝具までの高さが変わるベッドは、
今では「介護ベッド」という名称で定着してきましたが、以前は「ギャッチベッド」と
呼ばれていました。20世紀はじめにアメリカの外科医ギャッチ氏(Wills.D.Gatch 1878〜1961)
によって考案されたのが名前の由来です。
日本では、終戦後米軍から払い下げられた医療用のベッドを参考に開発され、
1955年に木村寝台工業(現パラマウントベッド)から国産第一号が発売されています。

在宅介護用としては、1983年に同じく木村寝台工業から発売された
「電動アウラベッド」がその第一号だと思われます。
ひとつのモーターが組み込まれ背中を起こし上げてくれる単純な機能のものでした。
その後脚部を持ち上げる機能が追加され、背中を上げた姿勢がより安定、安楽になりました。
一般の家庭内で使用することを想定して設計されていたこのベッドは、
寝具までの高さが約40センチと病院用に比べ極端に低く、
シーツの交換やベッド上での介護には使いづらいものでした。
そこで90年代初めには、寝具までの高さを変える「ハイロー」機能を追加したモデルが登場、
現在に至る基本形が確立しました。

そもそも家庭向けの介護ベッドは、重度障害者の日常生活を支える道具として普及してきた
という側面があるのも事実ですが、高齢社会の現代においては、
「こたつと布団」に代表される足腰膝に負担のかかる生活様式から、
「イスとベッド」という行動しやすい生活様式へのシフトを象徴する存在であると言えます。
大局を見れば、一人で起き上がれるお年寄りに電動式介護ベッドを貸し出すことが
不適切なのではなく、高齢期に必要な生活環境に合わせた最低限の機能を持つ、
適切な介護ベッドが存在しないことが不適切なのだと私には思えるのですが、
皆様はどうお感じになりますか?

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