「まちかどノーマライゼーション」

ノーマライゼーション 平成14年2月から4年半にわたり、情報誌「fooga」(発行コンパスポイント)に連載コラム「まちかどノーマライゼーション」を掲載し、ノーマライゼーション思想の普及を行いました。

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筆者プロフィール

伊藤勝規
1964年宇都宮生まれ。
高校時代に宇都宮車いすガイドブック作りに参加したのをきかけに福祉道に入る。
「福祉」を慈善ややさしさとは切り離し、独自の視点で語ることをモットーとする。

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2004年3月号 「発想の転換」

今年5月、全国脊髄損傷者連合会の総会が宇都宮で開催されます。
この会は、車いすを利用して生活する方々が、自分たちの生活を豊かにするために
活動しているもので、通称「車いすの会」とも呼ばれています。
総会ではなかなか進展しない、バリアフリー対策なども議題に上ることでしょう。
バリアフリー対策の進む国と言えば、第一にアメリカ合衆国が挙げられますが、
それには、いかにもアメリカらしい発想の転換が理由しています。

1960年代まで、他国と同じようにアメリカでも、障害者は社会による保護の対象として
税金を消費するだけの存在と位置づけられていました。
しかし、産業構造が変化しいわゆるデスクワークの比重が高まってくると、
すべての障害者が保護を必要としているわけではなく、訓練をし環境を整えれば
健常者と対等に労働に従事できる障害者も多く存在することがクローズアップされてきます。
つまり、就労能力のある障害者を保護の対象から外し、
逆に税金を納める立場にまわそう、と考えたわけです。

この考え方は、1973年に改正されたリハビリテーション法に反映されます。
就労のためのリハビリテーションが強化されたわけですが、
同時に納税者となった障害者への社会サービスについても規定され、
バリアフリー対策の第一歩が踏み出されたわけです。具体的には、
税金によって運営される役所や図書館、税金を財源に補助を受ける大学や研究機関は、
その利用に際し障害者を差別してはならないことが明確化されます。
「税金を払うのだから、相応の恩恵は当然」と考えたのです。
いかにも市民権感覚の発達したアメリカならではの発想の転換です。

この法律は、今でも大きな影響力を持っており、最近では政府関係機関調達のパソコン、
電話機、FAX機やソフトは、障害者にも利用できるものでなければならないという判断が、
この法律を元に下されています。
対応を迫られている日本のメーカーも多いのではないでしょうか。
バリアフリーの動きはその後、デパートや交通機関などさまざまな公共的サービスに
波及します。一つには、障害者が納税と言う義務を果たすことで社会の一員であると
アピールしてきたこと、もう一つは消費者として経済的にも無視できない
存在となってきたことが理由です。

もちろんアメリカにも身体的、知能的な障害によって就労できず、
今でも保護の対象となっている人々も多くいます。アメリカのバリアフリーは、
そういった重度の障害者と、就労し納税者となる能力のある障害者を区別することで
発達してきた側面は否定できず、その意味では差別問題は解決されてはいないのでしょう。
「能力のある」という言葉に、陸上競技などで予選通過を意味する
「qualify(クオリファイ)」という単語を当てているところにも、アメリカ的な合理主義を感じます。

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