「まちかどノーマライゼーション」

ノーマライゼーション 平成14年2月から4年半にわたり、情報誌「fooga」(発行コンパスポイント)に連載コラム「まちかどノーマライゼーション」を掲載し、ノーマライゼーション思想の普及を行いました。

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筆者プロフィール

伊藤勝規
1964年宇都宮生まれ。
高校時代に宇都宮車いすガイドブック作りに参加したのをきかけに福祉道に入る。
「福祉」を慈善ややさしさとは切り離し、独自の視点で語ることをモットーとする。

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2004年2月号 「車いすでしか行けない東京新名所」

階段や通路幅といったバリアによって、車いすを利用する人が入ることの出来ない場所、
施設はたくさんあります。
ましてや、自然の奥深くや歴史ある建造物といったものの多い観光名所となると、
バリヤ無く楽しめる場所を探すことはひと苦労です。
そんな中、東京のど真ん中に、車いすを利用する人とその連れ人しか
見学することの出来ない、とてもすばらしい場所が在ると言ったら、
にわかには信じてもらえないかも知れません。

日本初の地下鉄は、一般には昭和2年に開業した「東京地下鉄道」、
今の営団地下鉄銀座線上野〜浅草間だと言われていますが、
それは一般旅客向け営業運転の最初であって、その12年も前、
大正3年の東京駅開業とほぼ同時期に、業務専用の地下鉄道が開通しています。
場所は東京駅から「東京鉄道郵便局」、丸の内南口を出ると正面に見える
現在の東京中央郵便局までで、1キロにも満たない区間ではありますが、
5台の機関車が郵便物を運んだと言われていますから、立派な地下鉄道です。

この地下鉄道は昭和15年に廃止され、トンネルは昭和50年代までは連絡通路として
使われていたらしいのですが、今では東京駅の地下部分のみが
通称「赤レンガ通路」として残されているのみとなり、
半分以上が埋め戻されてしまったと言うことです。
現在は、エレベーターなどが整備され、車いすを利用する旅客を
丸の内南口に設けられた身障者待合室から新幹線ホームなどに移動させるための
迂回路として利用されています。

私がはじめてこの「赤レンガ通路」に入ったのも、車いすを利用する友人と
新幹線を利用して大阪へ行く際でした。
一般旅客と同じ通路を通るとばかり思っていた私たちは、
駅スタッフの案内でいきなり薄暗い地下に案内され、
一瞬「なんでこんな不気味な場所を通されるんだ!」と憤りを感じましたが、
良く見ると、正確に半円を描く天井に規則正しく並べられたレンガが、
ガス灯を模した灯りに照らし出され、とても美しく優しい雰囲気の空間を作っています。
このままお洒落な地下ビヤホールでも開店できそうです。

この通路が「赤レンガ通路」と呼ばれ、日本初の地下鉄道の遺構であり、
東京駅建築当時そのままの姿を残す場所であることを知ったのは、
かなり後になってからのことなのですが、ますます通るのが楽しみな場所になりました。
とは言っても、忙しい駅スタッフに連れられて足早に通り過ぎるしか出来ない場所でもあり、
なんとももどかしさを感じる場所でもあります。
たとえばギャラリーのような形で一般に開放すれば、新しい東京の名所として
多くの人を集めることが出来るでしょう。
「そうなればゆっくりと見学できる」と期待する気持ちの一方で、
車いす利用者とその連れ人しか見学できない隠れた名所として、
優越感を感じていたいというのが、実は本音です。
「車いすでしか行けない」そんな場所が一ヶ所くらいあっても、いいじゃないですか。

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